千一夜物語

まだ家具や布団もなかったため、牙に狗神の姿になってもらってもたれかかり、ふわふわの尻尾を布団代わりにしてその日は眠った。

黎を包み込むようにして寝顔を楽しんでいた牙はまだ若く、玉藻の前は仲睦まじいふたりに嫉妬したり黎の寝顔が普段冷淡に見えるのに随分と可愛らしい童顔に見えてにじり寄った。


「黎様って言葉遣いもきれいだし佇まいもどこか気品があるけれど、やんごとなき方なのかしら?」


「知らねえの?黎様は鬼頭家の当主なんだぜ」


「鬼頭…?ああ、親友の鬼八(きはち)の女に横恋慕をして奪おうとしてもめて、鬼八を封印することになったっていう‟裏切りの一族”の?」


牙は金色の目をすうっと細めて鋭く尖った牙を見せて威嚇しながら黎を守るようにしてさらに身体を丸めた。


「それは黎様の祖先であって黎様じゃねえ。黎様のせいじゃねえのに黎様は今も鬼八の封印をし続けなきゃいけねえんだ。斬っても焼いても鬼八の首は死なねえ。だから首塚に封印して今も怨嗟をまき散らす鬼八を鎮めなきゃいけねえんだ。可哀想だろ」


――‟裏切りの一族、鬼頭家”。

妖の間では有名な話であり、今は鬼八の家も血が絶えて、同じ血筋だった鬼頭家が今や鬼族の始祖と呼ばれている。

黎自身はそう揶揄されても悪口などまるで気にすることがなく、とにかく時々やらなければならない鬼八の封印がめんどくさいとこぼすくらいなものだ。


「お前も黎様を馬鹿にするのならすぐここから出て行けよな」


「馬鹿になんてしてないわよ、事実を言っただけじゃない。だけどそうね、馬鹿狗の言う通り黎様が悪いんじゃないわ。ああ寝顔もす、て、き…」


長く生きてきた玉藻の前自身も、様々な人生模様を見てきた。

鬼頭家にまつわる話も耳にしていたが特に感想もなく生きてきたが、黎が関わるとなれば別問題。


「苦労してらしたのね…」


「だけど黎様自身はすげえ人望がある。我が儘でめんどくさがり屋だけど」


「うふふ、さすが私が目をつけたお方…」


次は自分が黎の枕代わりになるのだと意気込んで、朝方までふたりで黎の寝顔を酒の肴に飲み明かした。