千一夜物語

がしゃどくろに土蜘蛛――

双方そこそこ強い妖が短期間に神羅を襲うことについて、黎は思案していた。

親玉の悪路王が乗り込んできた場合、ここは戦場になる。

朝廷や御所、そして町は破壊され、こちらが勝つとしても被害は大きなものとなるだろう。


「やっぱり乗り込むしかないのか」


「悪路王はずっと遠野周辺に居るんだよな。なんで自ら襲って来ねえんだろう?」


「会ったことはないが、奴は鬼としての特性が強すぎて見る者すべてを恐怖に陥らせるらしい。今まで人前に姿を現したことのない奴が何故暴れているのか気になるところではあるな」


音羅の息子である赤鬼と青鬼は浮浪町を巡回している。

その姿はとても怖くて恐ろしいが――彼らは人を襲うことがなく、また気軽に声をかけることもあってか、すぐ住人たちに受け入れられた。

住人たちはもう知っていた。

全ての妖が怖くて人を食うわけではない、と。


「さて、じゃあ神羅をからかいに行ってくる」


朝廷には結界を張ってあるため何かあればすぐ分かるし、本気を出せばすぐ着く距離ではあるが――最近の神羅は相変わらず気性は激しいが可愛らしく、女の色香が増した。

…まさかそれが関白の男のせいではないのかと妙な勘繰りをしてしまう黎も大概鈍感で、朝議の時も神羅の傍にぴったり座って御簾越しではあるがすぐ近くに座っている関白を警戒していた。


「…黎、近すぎます」


「誰も見てないからいいじゃないか」


朝議が始まり、退屈な時間が訪れた。

官らと言葉を交わすのは関白であり、神羅はほとんど言葉を発することはない。


――だが時折御簾を見通すような目で神羅を見る節のある関白の視線が目障りな黎は、腰を上げて御簾を二重に下げて何も見えないようにした。


「黎、何を…」


「あいつの視線が鬱陶しい。…よその男に色目を使うとあいつを殺すぞ」


神羅を背中から抱きしめるようにして座り直した黎は、首筋に唇を這わせながら胸元に手を潜り込ませた。

身体を引きつらせる神羅の顎を取って振り返らせると、吐息の漏れる唇に唇を重ねて貪った。


「だ、駄目、皆が見て…」


「誰も見てない。いや、見ている者が居るかもしれないな。帝が男を連れ込んでこんなことをしているなんて誰が想像できる?」


――煽ってくる黎の言葉に燃え上がり、抵抗できなくなった。

翻弄されて、声が漏れるのを我慢しながら思った。


悪路王が自分を殺しに来なければいい。

そうすれば黎はこれからもずっと通い続けてくれる――

切なくなりながら、唇を重ね続けた。