千一夜物語

それはとても優しい口付けだった。

神羅は絡まる舌にとろけそうになって、はじめて自らそれに少し応えて――黎を滾らせた。


「…どうした、優しいじゃないか」


「お、お主が傷ついているようなので、たまには…優しくしてあげようと思っただけですっ」


つんつんとしてみせたものの、黎がようやくふっと微笑んだのを見てほっとしたのも束の間――

何度かついばむように唇を重ねてきてたまらず身体を引くと、力強く抱きしめられて瞼や耳、頬に雨のように口付けをされて、やばいと思った。

このままでは本当に抵抗できなくなる――

自分が黎を欲しているのを知られてしまう――

腕の中でもがくと、黎の少し開いた唇からちらりと牙が見えて、それを色っぽいと感じてしまった。

あの牙で毎日甘噛みされて、その日々を重ねる度に快楽を覚えてしまっていることを知られてはならない。


「優しくしてくれるんじゃなかったのか?いいからじっとしていろ」


「ま、まさか私を抱く気では…」


「お前もその気なら抱くが…そういう気になったのか?」


ぶるぶると首を振ると、黎はひとつ小さく息をついて神羅の胸に顔を埋めた。

そのままじっとして動かない黎がまだ弱っていて頭を撫でてやると、ますますきつく抱きしめられてゆっくり押し倒された。


「れ、黎!」


「抱かない。抱かないからこのまま…」


「…いいですよ、気が済むまでじっとしています」


黎がふと顔を上げた。

重たい身体を感じながらじっと見つめていると、唇を重ねてきてゆっくり舌を絡め合った後、また胸に顔を埋めてじっとしていた。


…少しは好意を持ってくれているのだろうか?

淡い期待を抱いて、けれどそれを打ち消さないといけないと分かっていながらも、黎の頭を撫で続けた。