千一夜物語

赤鬼と青鬼はあまりにも大きいため空への移動は諦めて舟を使った陸路に切り替えた。

黎は一足先に空を駆けて遠野に向かい、近くの人里の近くで下りて林を分け入って澪が住んでいる屋敷がある周囲に張られている結界を堂々と破って侵入した。


あのこうるさい雷親父がすぐ現れるのは想定していたため、ゆっくりとした足取りで納屋の出入り口にもたれ掛かって現れるのを待っていた。


「!貴様は…っ」


「久々だな。約束通り娘を貰い受けに来たぞ」


遠野に向かう途中に立ち寄った妖の住む集落で猫の顔をした仮面を買ってそれを付けていた黎を見た澪の父親が鼻で笑った。


「…何故笑う」


「どこの何者だか知らんが、娘は嫁に出した」


「なに…?」


「お前のようなうつけ者に狙われたがために早めに嫁に出した。まさか娘が言うように本当にまたここへ来るとはな」


――澪がここへ来るのを待っていたのだと知った黎は、すらりと刀を抜いてにじり寄った。

だが何匹もの鵺が屋敷から飛び出てきて咆哮を上げると、生態のよく分かっていない多数の鵺を相手に立ち回るのは厳しく、歯噛みしながら絞り出すような低い声で問うた。


「どこの誰に嫁に出した?」


「教えると思うか?由緒正しく高貴な方の元に望まれて嫁に出したのだ。貴様の手の届かぬ所へな。行け!」


命令を受けた鵺たちが一斉に黎に襲い掛かる。


「く…っ」


ここは一旦引き下がって態勢を整えなければ。


「また来るぞ。次はお前を痛めつけて吐かせてやる」


「やれるものならやってみろ。死んでも娘の所在は明かさん!」


――待ってくれていたのに。


「…どんな手を使ってでも居場所を突き止める」


自身に言い聞かせながら、その場を素早く離脱した。