千一夜物語

全ての者の手、もしくは足の腱を断った。

そして天叢雲が体内の血の半分以上を吸ったため、貧血状態に陥った全員を舟に乗せて足で蹴って沖へ流した。


「記憶は奪っていないし、一応血止めもしたから死にはしないだろう。音羅、またここに誰か来るようだったらすぐに知らせろ。助けに来てやる」


褒めてほしくてすり寄って来る牙と玉藻の前の頭を撫でてやりながら黎が立ち去ろうとすると、音羅は黎の前に回り込んでずしんと音を立てて正座した。


「黎様、このご恩は必ず…!」


「ご恩とか礼とかする必要はない。俺は友を助けに来ただけだ」


黎はこうして無償で手助けをする。

だからこそ黎を慕って心酔する者が多いことに気付いてないのは本人だけで、音羅は後ろに控えていたまだ若い赤鬼と青鬼を手招きして同じように座らせた。


「これなるは我が息子でございます。黎様と共に戦い、お守りしたいと願い出ております。どうか連れて行ってはもらえませぬか」


戦っている最中、なんとか人に危害を加えず攻撃をやり過ごしていた彼らを見ていた黎は、今後悪路王との戦いに突入するため頭数は揃えなけらばと考えていたため、頓着なく頷いた。


「大きな戦になる可能性があるが、それでもいいなら」


「ありがとうございます!」


顔を輝かせた彼らが可愛らしく、黎はくるりと踵を返して牙ににっこり笑いかけた。


「お前たちはこのまま浮浪町に戻れ。俺はちょっと遠野に行って来る」


「おお!?嬢ちゃんを攫いに行くのか!?」


「まあそんなところだ。赤と青を頼むぞ」


澪と再会するのも楽しみだったが、黒縫の虎の身体を撫で回すのも楽しみにしながらいそいそと遠野へ向かった。