千一夜物語

十数人の人の集団は黎の予想通り早朝にやって来た。

それぞれが神性を持つ刀を手にしていて、見境なく鬼に襲い掛かって刀を振りかざしていた。

だが鬼の方も身体は頑丈で、ひと太刀浴びせられた位で死んだりはしない。

統治している音羅の影響からか、戦うことを厭う者が多く、音羅の家の屋根に立ってその光景を見ながら隣に立つ玉藻の前の肩を抱いた。


「やれ」


「承知」


玉藻の前が胸の前で手で三角形を作って目を閉じた。

妖狐は幻術が得意であり、九尾ともなれば戦闘も幻術も得意なため、玉藻は彼らが最も恐れているものが見えるように術を行使した。


「う、わぁあーっ!」


ある者には最も大切な者が妖に食われている幻術を。

ある者には生きたままその身を貪られる幻術を。

ある者には信頼している友たちに裏切られて襲い掛かられる幻術を。


――あっという間に恐慌状態に陥った人たちが逃げ惑う様を見た黎は、屋根から飛び降りて刀を鞘から抜いた。


『女は居ないのか。不味そうな血をしている男ばかりだな』


「四の五の言うな。お前にも言っておくが俺は腱を断つだけだ。決して勝手な行動を取るな」


『ふははは、任せろ。身体に流れている血の半分程度で許してやる』


幻術を見せられている中において、狗神姿の牙が彼らの間を駆け回ってわざと耳をつんざくような大声で吠えて失神する者も現れた。

黎はひたひたと彼らに近付いて、その冷淡で触れれば切れるような美貌に愉悦の笑みを浮かべて彼らの足を凍りつかせた。


「ひ、人…!?いや違う…お前は何者だ!」


「俺か。俺もあれらと同じ鬼だ。ひとつ訊くが何故ここへ来た?ここに住む者らがお前たちに何かしたか?」


恐らく彼らを率いていると思われる恰幅の良い髭の生えた男は足をがくがくさせながらなんとか虚勢を張った。


「お前たちの方が俺たちを襲っているんだろうが!お前たちは悪だ!滅びろ!」


――悪路王が人に牙を剥いたため、人が起つ――

その人が神羅であり、神羅の作る武器を持つ者が妖を襲う――


「ひどい悪循環だな」


黎は一度目を閉じて大きく深呼吸した。

そして目を開けた時、その目には青白い炎が燈り、さらに彼らを委縮させた。


「俺たちは滅びない。だがお前たちも滅びる必要はない。覚えておけ、二度とここへ近づくな。そうすれば俺たちはお前たちに何もしない。少し痛くするが、心配するな。命までは奪わない」


天叢雲が鈍い光を放った。