千一夜物語

「黎様、一献いかがですか?」


とりあえずは一部屋だけだが寛げる場所ができて大満足の黎は、玉藻の前が持ち込んだ酒を見て顔を綻ばせてふたりをぽうっとさせた。


「いいな、お前がよく気が利いていい」


「そんな、好きだなんて嬉しい!」


「誰もんなこと言ってねえし」


どうやら牙と玉藻の前は馬が合わないらしく日がないがみ合っているが、そういうのはどうでもいい黎は漆喰を塗られてきれいになった壁に背を預けて盃に注がれた酒を一気に呷った。


「まあ、なんて素敵な飲みっぷり」


「ところで黎様、屋敷の周りを人がうろうろしてるんだけど、食ってもいいのか?」


「今の所はやめておけ。人の住む世界に勝手に入り込んだんだ、そこは分をわきまえるべきだ」


「妙なところで律儀なんだよなー、了解」


足を斜めに崩してこちらも寛ぎにかかった玉藻の前は、黎の隣で胡坐をかいてぐびぐび飲んでいる牙を上から下まで眺めると、黎の腕をちょんと突いた。


「黎様は何故狗神と行動を共にされておられるの?」


「こいつが勝手について来たんだ」


「俺は人に殺される寸前を黎様に助けてもらったんだ!それからはずっと一緒!」


「むっ。黎様、格で言うとわたくしの方が断然上ですわよ。あなたの望みをわたくしが全て叶えてご覧に入れますわ!」


「じゃあとりあえず屋敷の掃除と家具を調達して来い。牙は庭をきれいにしろ。住める状態にしないとお前たちのことを嫌いになってやる」


ぴっと背筋を正した牙と玉藻の前が頭を下げると、黎はすっと立ち上がって屋敷の奥を指した。


「風呂はきれいにしてあるんだろうな?」


「ええ、この部屋とお風呂場だけは完璧に」


「よし、じゃあ俺は風呂に入って来る」


「わたくしも一緒に…」


「俺も一緒に…」


ふたりの声が重なった瞬間口論が始まり、黎はふたりを無視してちゃんと沸かされた熱い湯に浸かり、何もしてないくせにぼそり。


「疲れた…」