千一夜物語

神社を出た黎がずっとにやにやしていたため、玉藻の前は横を飛んでいる牙の首根っこを掴んでまくし立てた。


「黎様は人に懸想しているんですの!?」


「んなわけねえじゃん、前に否定してたし、黎様はあの女帝を食うつもりで守ってるんだから…違うだろ?」


玉藻の前に説明しながらもなんとなく牙もそう思っていたため、前を行く黎の背中をじっと見た。

視線を感じた黎が止まって振り返ると、ふたりは黎に詰め寄って相変わらずにやついている黎を問い詰めた。


「あのさ黎様ー、女帝となんかあったのか?」


「いや別に?いつも通りちょっと齧ってきただけだ」


「齧るだけじゃなくて指の一本くらい貰って食えばいいじゃん」


「食う時は全部骨まで食う。何故そんなことを訊く」


「黎様!玉藻を食べてもいいんですのよ?違う意味でですが!」


「馬鹿言ってないで早く行くぞ。音羅は鬼族にしては根が優しいから抵抗せずやられる可能性がある」


鬼族の中でも種類があり、巨漢の者が多く、その体躯は青かったり赤かったり様々だ。

大抵は頭の左右に角が生えていて鋭い牙も口から出ているが、黎のように人の大きさで美しい容姿をしている者はとても少なく、見ればすぐ鬼と分かる音羅たちにとっては憧れの存在でもある。


「食っていいのか?」


「駄目だ。人が持っている武器を残らず奪い取れ。怪我くらいはいい。できれば二度と武器を振るえぬよう腕の腱を斬れ」


「承知」


胸の傷はもう癒えた。

癒えたら遠野まで行って澪に会いに行こうと思っていたが、この件が済んだらすぐ会いに行って攫ってくる――

それが澪の望みであり、自分の望みでもあるのだから。