千一夜物語

考えても答えの出ない悩みは悩む価値もない。

根から坊ちゃん気質の黎は、妻問題を考えるのをやめて数日間いつものように御所と浮浪町の拠点を行ったり来たりしていた。

その間にも浮浪町の空き地には畑が作られて種が撒かれて芽が出ていて、ごみだらけだった往来も皆が意識的に片付けるようになっていた。


「だいぶ町らしくなってきたな」


「黎様の手腕だぜ!あ、そういえば黎様、烏天狗から文を預かってたんだった!」


「文?」


――黎が浮浪町に住んでいることは妖の間で周知の事実となっていて、日を追うごとに黎を慕って訪ねてくる妖も増えていたのだが…こうして文を貰ったのははじめてだった。

縁側で氷を齧っていた黎は牙から文を受け取って目を通したのだが、すうっと目が細められたのを見た牙は、横から文を覗き込んだ。


「助け?助けを求めてるのか?」


「西に鬼ヶ島と呼ばれる多くの鬼が住んでいる場所がる。人が住んでいる地からは海を隔てて離れているから人がやって来ることはないんだが、どうやら最近鬼を退治しようとする連中が時々やって来るらしい」


「へえ、それで黎様に助けを?」


「鬼族は本来血気盛んな者が多いが、温厚な者も居る。温羅という者が統治しているんだが、人と争いたくないらしいからどうにかできないかと書いてあるな」


「で?行くのか?俺も一緒に行っていい?」


「お前と玉藻を連れて行く。全く…また神羅が作った武器を携帯しているのか。やっぱり一度神羅を懲らしめないとな」


神羅は齧る程度ならもう何も言わなくなったが、相変わらず武器に祈りを込めて神性を持たせる作業は続けていた。

あれから悪路王側の襲撃は止んでいたため、今しかないと踏んだ黎は、腰を上げて獣型の姿で日向ぼっこをしていた玉藻の前の首根っこを掴んでぷらんとぶら下げた。


「今から行こう。早く済ませて武器を回収する。言っておくが傷つける程度はいいが殺したり食ったりするな」


「りょーかい!」


「その前に神羅に会いに行く。ついて来い」


鬼族の者から助けを請われて無視はできない。

久々に黎の目が殺気を帯びて光った。