千一夜物語

神羅はその後床に入らず寝てしまい、黎は一応朝まで警戒した後浮浪町に戻って牙たちに出迎えられた。


「黎様お帰りー!そっち敵が行ってなかったか?」


「ああ、土蜘蛛が来た。殺したが…いよいよ神羅を殺さんと徒党を組んで攻めてくるかもしれない」


「ふうん、そうなる前にもう食っちゃえば?」


――牙の言う‟食っちゃえ”は字の如くその身を食らうという意味であり、妖の考えとしては至極まともだ。

だが黎は縁側にごろんと寝転んで、神羅を食っている様を想像してみたものの――うまく想像力が働かずに目を閉じた。


「約束をしたからそれはできない。くそ…あと一歩のところであの身を抱けたものを」


「おおっ!?いい感じになったのか!?あっちも黎様に気があるってこと!?」


「んん…それは分からない。だが時々妙に色香を感じる。まんざらじゃないってところだな」


「へえー…へぇー!じゃあさあ、食わずに嫁さんにしちゃえば?」


――黎は目を瞬かせてぶんぶん尻尾を振り回している牙を見つめた。

言われている意味が分からずにきょとんとしていると、牙は金色の目を大きく真ん丸にして、人型のまま黎の腹に顎を乗せてにかっと笑った。


「だって当主は嫁さんは何人貰ってもいいんだろ?女帝の方は人だから早く死んじゃうから仕方ないとしても、あの遠野の嬢ちゃんは鬼だし長生き!黎様が女帝に気があるのなら…」


「気なんかない。あれは単に俺の食い物だ。妙なことを言うと泣かすぞ」


黎が拳を振り上げると叩かれると察して耳を倒して目を瞑ったが、その手は牙の倒れた耳を優しく撫でてむにむに撫で回していた。


「ごめん…」


「こんなことで俺が殴ると思ったか?…あれが俺の妻にだと?人なんか嫁に貰ったらそれこそ恥さらしだと後ろ指を指される」


自分でそう言ったものの自身の言葉になんとなく傷ついて、無理矢理寝ようと身体を丸めた。