千一夜物語

そうなると炎が燈った男としては止まることはできない。

黎は少し乱暴に神羅を押し倒して神官衣をはだけさせると、胸が露わになった形の神羅が慌てて背を向けて隠した。


「く、唇だけの約束では!?」


「止められるわけないだろう。お前が俺に可愛らしい表情を見せるからこうなったんだ。覚悟しろ」


――黎はとても自然に女を褒める。

場慣れしているし女慣れしている感が否めなくて、神羅が黙ってじっとしていると、黎はさらにはだけさせて背骨に沿って唇を這わせて小さな悲鳴を上げさせた。


「や、やめ…っ」


「本来なら抱いた後すぐ食うんだが、今腹は減ってない。ひとまずお前の操を頂く」


音を立てて首筋を吸われて身体が熱くなってきて、このまま抱かれてもいい――と思った時、黎がぱっと顔を上げて身体を起こした。


「…何か来たな」


「妖…!?」


常に手元に置いている弓を手に素早く起き上がった神羅は、こんな状況でもじっと胸に注がれている黎の視線に気付いて慌てて膝を抱えて丸くなると、ぴっと庭を指した。


「お主は責務を全うしてきなさい!」


「くそ…いいところで邪魔が入った。すぐ殺してくるから待ってろ」


黎の刀――天叢雲がかたかたと音を立てて振動して鍔鳴りを起こした。

こういう時は大物の妖が近くに居る傾向があり、黎は髪をかき上げながらかがり火の炊かれる庭に下りて辺りを見回した。


「出て来い。邪魔をしたことを後悔させてやる」


「ふはははは」


上空で笑い声が聞こえた。

直後――轟音と共に降ってやって来た妖の大きさに黎が肩を竦めた。


「なりだけ大きくとも面白くない。かかって来い」


巨大な蜘蛛――土蜘蛛の多数ある目が黎を獲物と見定めて赤銅色に光った。