千一夜物語

――黎の胸の傷…ただの武器では上級の妖を傷つけることはできない。

ふとそう思い立った神羅は、相変わらず通い続けてくる黎の胸の傷に毎日治療をして、そして驚異的な回復ぶりに驚嘆しつつ、そこである結論に至った。


この胸の傷…もしや自分が作った武器で負った傷なのではないのだろうか?


だが黎は自分を責めないし、ただ自分の不注意で負った傷だと言ってあまり深い話はしてくれない。

普通の妖ならば致命傷となって死んでいただろう。


「まさか…まさかその傷は…」


もう恋をしてしまったと自覚をしていた。

日がな御所にやって来てはぶらぶらして、だがそれだけで十分抑止力になっていることを今や神羅は知っていた。

横柄で己の言い分は決して曲げない男だが、もし自分が作った武器で死んでいたならと思うと胸が痛くなって、塗り薬を塗る手を止めた。


「なんだ、何が言いたい」


「この傷……まさかとは思いますが…私の作った武器で…」


「その通りだが、それがなんだ?」


あっけらかんと薄情して神羅の腕を掴んだ黎は、唇を震わせて後悔に耐えているような表情をしている神羅にぐっと顔を近付けてにやりと笑った。


「まさかお前の作ったもので傷つけられるとは思っていなかったぞ。どうやってお前を懲らしめようかと考えていたが、途中考えるのに飽きてな。だからお前を責めたりはしない」


「それで…お主はそれでいいのですか…!?」


もしや責め立ててほしいのか?

――妙な癖の女だなと思わずふわっと笑った黎の笑顔に見惚れそうになった神羅がぱっと目を逸らすと、黎は神羅の頬をむにっと引っ張って耳元で囁いた。


「じゃあ詫びに唇でも頂くか」


「………お主の気がそれで紛れるなら…」


まさか同意が得られるとは思っていなかった黎は、そのしおらしい様に胸に炎が燈って荒々しく唇を重ねた。


これは食い物だから、情などかけてはならない。

抱くのは前提であり、決して情を抱いたわけではない。


何故かそう自身に言い聞かせながら、抵抗しない神羅の舌に舌を絡めて貪るように獲物の味を味わった。