千一夜物語

熟睡してしまった黎は、ぼんやりしながらむくりと起き上がって隣で寝ている神羅を見つめた。

眠っている時何かを抱きしめて寝る癖があり、大抵それは獣型になった牙であり玉藻の前であり火車なのだが――

人をこうして抱き枕にしたのははじめての経験で、何故だろうと考えたもののまあいいかとすぐ考えるのをやめて覆い被さってみた。


…やはり美しい女だ。

ともすれば鬼族の女だと言っても誰も疑わないほど気が強く、目や唇も吊っていて鬼族っぽい。

だが齧れば甘美な味がするし人なのは確かで、そっと胸元に手を忍び込ませると、気配に気付かれて思いきり鳩尾に拳を食らって悶絶した。


「お、前…!女のくせに鳩尾に拳なんか…」


「女のくせに悪かったですね。お主こそ寝ている女子を襲おうとするなんてなんと見境のない!女であればこうして見境なく襲っているのですか?私は絶対にお主に身体も心も許しませんからね!」


「いや、見境ないわけじゃないぞ。顔も身体も好みな女しか襲わない。そういった点で条件を満たしているのはお前と、あと…」


言いかけてやめた黎は、やや頬を上気させて胸を隠して横たわったまま怒っている神羅にむらむらして腕を掴んで指を強く齧った。


「お前みたいに強気な女は好きだ。強情だった女が徐々に身も心も委ねてくる様は最高だぞ」


「す…好きですって…!?」


「ああ、好きだとも。だからもっと齧らせろ。お前の血を味わいたい」


――心を傾けている男に好きだと言われてつい女の表情になってしまった神羅にまたむらっとした黎は、首筋をぺろりと舐めるとぎゅっと目を閉じた神羅の唇に噛みつきたくなって顔を寄せた。


「なんだお前…大人しいな」


「!残!念!でしたね!」


再び鳩尾に強烈な拳を食らい、悶絶。


「誰が大人しくなんかなるものですか!またしようとしたら今度は急所を蹴りますからね!」


「ははっ、その意気気に入った。それでこそ俺が気に入った女だ」


――黎の言葉の節々に胸が高鳴ってしまってやるせなくなる。

絶対に絶対に、この想いを知られてはならない――


黎を睨みつけたが一向に効いた様子はなく、それからは黎の存在を無視して弓矢の矢じりに祈りを込めながらやり過ごした。