千一夜物語

傷を癒すには休息が一番なのは人と同じで、黎は傷の手当てを受けた後ごろんと寝転んでそのまま眠ってしまった。


「神社の中で寝るなんて…本当に妖なのかしら…」


そう言いつつも病人なのは確かで、仮眠用の掛布団をかけてやった神羅は大きな欠伸をしてしまって両手で口を押さえた。

…実はここ数日、妖が見えるようになって御所内を歩き回って雑多な霊や妖を弓で屠っていた。

日中は政務をこなし、夜は退治――寝る間も惜しんで動き回っていたため、こうして無防備な寝顔を見せられるとつい眠気を誘われてしまう。


「ちょっとだけ…ちょっとだけ寝よう」


黎から離れた所で同じように身体を横にするとすぐうとうとしてしまうと――ごそごそと何か音がしたと思ったら、背中から抱きしめられて、胸に回された手を慌ててつねった。


「な…何をするんですか!」


「抱き枕になれ。じっとしていろ」


相変わらず横柄な態度だが、すぐまた寝息が聞こえた。

…しばらくじっとしていたが、傷の具合も気になって緩んだ腕を解いて黎の方に身体を向けると――長いまつ毛が美しく、少し開いた唇が妖艶で、魔に魅入られてしまったと自覚し始めた神羅は、小さく息をついた。

すると少し目を開けた黎にぐっと抱き寄せられて胸に顔を埋めるように身体を少し丸くして寝てしまい、不覚にもきゅんとして抵抗できなかった。


「私を狙っている敵に会っていないというのにお主は誰にその傷を受けたのですか?」


今度は完全に熟睡してしまっていて返事はなく、思わず黎の頭を撫でた神羅は、そのさらさらな手触りが癖になってしまって何度も撫でていた。


――こんなことではいけない。

そう分かっていても…

自分を食うのが目的でこうして会いに来ると分かっていても、傾いた心はもう元には戻れなくなっていた。