千一夜物語

黎を迎えに行こうと宿屋を出ようとしていた牙は、急速に黎の気配が近付いて来て二階の窓から外を見て首を傾げた。


「あれ?黎様だー」


「黎様!?お怪我は大丈夫なの!?」


わあわあと混乱している間に黎が近くの森で降りたため、牙たちはすぐ宿を出て黎を迎えに行くと、やはりまだ傷が痛むのか、岩に腰かけて俯いていた。


「迎えに行くって言ったのにどうしたんだ?」


「途中邪魔が入って出ざるを得なかった。この傷じゃ満足に戦えないからとりあえず一旦帰る」


「黎様!お会いしとうございましたっ!」


玉藻の前にがばっと抱き着かれて痛みに顔をしかめた黎は、頭をぽんぽんと叩いて立ち上がると、牙たちと共に人気のないところまで移動してにやり。


「牙、あの娘は俺が頂こうと思う。傷が癒えたら迎えに行く」


「おっ!?嫁さんにするってこと!?」


「そこまではまだ考えていないが、窮屈な人生を送る羽目になるらしいからな、攫って俺の傍に置いた方がいいだろう」


「!?黎様に奥方が!?」


ぴたりと足を止めてわなわなしている玉藻の前の様子にため息をついた牙は、頭をかきながら唇を尖らせた。


「なんだよ、ご主人様の幸せを喜べよなー」


「うるさいわね、複雑な乙女心なのよ!」


種族が違えど夫婦になる者も居なくはないが、玉藻の前が黎に惚れているのかどうか量り兼ねた牙は、玉藻の前が邪魔にならない限りは放っておこうと決めて黎の傍に戻った。


「で?どこまでした?」


「唇までは。呆けていたが迎えに行くと言ったら喜んでいた」


「やったじゃん!あっちも惚れてんじゃん!」


「あっちもって…俺は別に惚れてなんか…」


「はいはい!んじゃとりあえずその傷治ったらまた来ればいいじゃん。いや待てよ、親玉殺すのが目的だったっけ?」


「両方だな。あの娘も神羅も俺が頂く」


「欲張り!」


思いを馳せる。

迎えに行った時一体どんな顔をするだろうか、と。

想像すると楽しくて、つい笑みが漏れた。