千一夜物語

神羅が移動する時はどこにでも女房がついて回る。

女帝は珍しく、よって後宮はがら空きで、黎は女房の十二単の袖を引っ張って立ち止まらせた。


「ついて来なくていい。俺ひとりが居れば十分だ」


「ですが…」


黎はそっと夜叉の仮面をずらして素顔を晒すと女房をぽうっとさせて、顔を近付けて囁いた。


「俺に任せておけ。いいな?」


「は…はい…」


袖で顔を隠してそそくさと退散した女房をまんまと追いやった黎は、御所の奥深くに作られた風呂場に着くと、神羅に強く言いつけられた。


「絶対に覗いてはいけません」


「分かったから早く入って来い」


神羅の目に見えないもの――雑多な僅かな力しか持たな雑霊がうろつき、それを握りしめて霧散させた黎は、衝立の外側に陣取って座ると、刀を脇に置いて欠伸をした。

その間神羅は浴槽に浸かり、黎が盗み見していないか気にしながら熱い湯を堪能していた。

身体の疲れよりも気疲れの方が大きく、黎がここへ来る以前から妙な気配を感じたりはしていた。

神職に就いていたためそういった気配に敏感だが見えないものも多く、手足をゆっくり伸ばしていると、二の腕が急にきつく締め付けられた気がして顔をしかめた。


「な、なに…?」


気を集中して締め付けられている手を見つめると――腕には透明な蛇が巻き付いていて目を見張ると、次にぽかりと浮かんだと思ったら黒髪の頭が見えて思わず後退った。


「れ、れ…」


黎を呼ぼうにも返事がなく、その間長い黒髪の女がゆっくりと姿を現して、にたりと笑われて喉からひきつったような絶叫が迸った。


「きゃぁ…っ」


「水蛇と…かつての後宮で帝に飽きられた女の霊というところか。どいていろ」


どんと肩を押された神羅が尻もちをつくと、黎は刀を抜いて無造作に女の霊を頭上から一刀両断に斬り捨てた後、言葉を紡げない神羅の腕に巻き付いている水蛇を素手で掴んで握りつぶした。


「この期に及んで裸を見られたとかぬかすんじゃないぞ」


――用心に湯着を着用していたものの湯に浸かると肌に張り付いて着ていないようなものと同じ。

黎はじろじろと首まで浸かってあまり見えない神羅の身体を目を細めて見ながらにやついて、おもむろに濃緑の着物を脱ぎ捨てて違う意味で神羅を絶叫させた。


「いやぁっ!何を見せるんですか!」


「俺も入りたくなった。邪魔するぞ」


「邪魔しないで下さい!出て行って!」


絶叫、轟く。