千一夜物語

朝廷は生霊や幽鬼の吹き溜まりだった。

神羅が机に向かって仕事をしている間、黎は寝転がりながらも様々な気配を感じていた。

――妖よりもよっぽど人の方が恐ろしい。

人が人を呪う力は死してなお強力で、対象を弱らせて死に至らしめる。


「おい、今日は夜まで滞在する。どこか出かけるなら声をかけろ」


「…では少し席を外して下さい」


「なんでだ」


「……湯を浴びたいので」


「風呂か。水場には良くないものが集まる。だからついて行く」


…もう嫌がらせをされているとしか思えない。


神羅はすくっと立ち上がって寝転んでいる黎の前に立つと、腰に手をあてて激しく見下ろした。


「女子の湯浴みを覗いてなんとしますか」


「覗くんじゃない。堂々と見るんだ」


「お主は…!これは許しませんよ」


「俺のもののくせに文句を言うな。どうせ見るんだから今見ても後で見ても一緒だろうが」


開いた口が塞がらない。

神羅は黎の神官衣をも見通して肌を見られているような達観した目で見つめられて後退りをした。


「ですからそれは対価でもなければ断固抵抗しますから」


「大抵女は最初そう言うから慣れてる。ほら、行くぞ」


小さめではあるが即位した時に風呂を作ってもらった。

それがささやかな願いであり、帝位に就く条件にするほど湯浴みが好きな神羅は、本当について来ている黎を歩いながら肩越しに睨んだ。


「お主は衝立の外側に居なさい」


「命令するな」


――意外と頑固な女だ。

矜持が高いというよりも、鉄壁の意思ともいうべきか。

黎の周りにはなかなか居ない性質の女で、思わずまたほくそ笑んだ。