千一夜物語

朝議が終了すると、神羅は誰よりも早く退出して御所に向かった。

目下やるべきことは、人を殺める妖の武器を作り続けること。

正直いって政治は関白たちがやってくれるし、自分は裁可を下すだけ。


――黎は神羅の後をついて歩きながら、はじめて訪れる朝廷に興味津々できょろきょろしていた。

帝の住まう御所に入れば驚くほど出会う人数が減るため、後で見回りがてら朝廷内をうろついてやろうと思っていると、神羅がある部屋に入るとお付きの女房が御簾を下げてその姿を隠した。


「あなたも下がっていいですよ」


「ですが…」


「これは用心棒ですから私の傍に居るのが仕事ですから。さあ」


神羅に促されて女房が夜叉の仮面を被った黎を不気味に思いながら退出すると、神羅は几帳の奥に消えて着替えを始めた。


「しかし何故神職の者が帝位に就いたんだ?」


「私の父上が帝位に就いていたのですが亡くなり、そして私が一人娘だったから。私は…担ぎ出されただけです」


自らを少し皮肉った口調に、黎は几帳の隙間から微かに見える神羅の肩や腰を見てにやにやしながらごろんと寝転んだ。


「ふうん、難儀なことだな。ところで俺の仲間がお前を狙っている妖のことを調べている。正体が分かり次第こちらから動いて仕留めるから、終わったら武器の製造をやめろ」


「ですが私たちにも自衛は必要です」


「必要ないと言っている。とにかくやめろ」


…話が通じない。

今度こそがみがみ叱ってやろうと神官衣に着替えて几帳から出て来た神羅は、夜叉の仮面を外して目を閉じて寝転がっている黎を見て思わず足を止めた。


――話の通じない男だが、今まで見たどんな男よりも美しい。

目の保養だけは十分すぎるため、神羅は咳払いして少し離れた所に正座すると、つっけんどんに言い放った。


「対価は考えますが、私を食うというのは除外です。私にはやるべきことが沢山あるのですから」


「対価はお前だともう決めている。少し寝るから話しかけるな」


…思い切り枕を投げつけて、机に向かった。