千一夜物語

幼い頃から住んでいた部屋に通された神羅は、家具などがあの頃のままの状態になっているのを見て美しい顔を綻ばせた。


「なんて懐かしい…」


「毎日掃除をしておったんだが、出産ともなればもっと念入りにと思い、磨き上げておいた。さあ、座りなさい」


八畳ほどの部屋にはいくつもの火鉢が置いてあり、部屋が寒くならないように配慮されていてまた頭を下げた。


「父が妖なのは真なのか?」


「…はい。お告げもありました。父は…鬼の者です。私、こんなことになるなんて夢にも思わず…」


「母になるということはそういうものだ。では退位は決定事項ということかね?」


「はい。人ではない姿で産まれてくるかもしれません。どんな姿であろうとも、私はこの子を愛します。大僧正…共に守って頂けますか?」


「妖の全てが悪ではないと経験上私も思っている。神羅よ、我々が道理を教えてやることで、子も真っ直ぐな性根を持って育つであろう。その腹では数日には産まれてきそうだな、準備をしなければ」


見知った顔が数多く会いにやって来て、改めてここで安心して出産できると思うと全くなかった食欲もわいてきて、皆で慎ましやかだけれど懐かしい食事をして、また御仏の元で暮らしていけることに喜びを感じた。


…あの夢のお告げの中で、我が子が‟父様は必ず迎えにやって来る”と言っていたことが気がかりだったが…

夜が来て温かい布団に包まって眠ると、今までずっと睡眠が浅かったのにあっという間に眠りに落ちて、環境と心境が変わることでこんなにも劇的に変わるものかと思いながら朝を迎えた。


「…つ…っ」


なんだか腹に違和感があった。

ここで世話になる以上は寺の掃除を手伝ったり庭を掃いたりして暮らしていくのが当然のため、雑巾を持って仏殿に移動しようとした時――


「痛い……っ!」


「神羅!?」


激痛が下腹部を襲い、崩れ落ちた。


陣痛が、やってきた。