千一夜物語

伊能からの報告では、懐妊したと聞いた黎は‟そうか”と言っただけでそれ以上何も言わなかったと言う。

…だが確実に疑っていただろう。

あんなに求め合ったのだから、もしやと思ったに違いない。


「神羅様、例の者から文を預かって参りました」


「!ありがとう!ご苦労様でした、またお願いしますね」


数日後戻って来た使者から文を受け取った神羅は、不安に押しつぶされそうになりながら人払いをして震える手で文を開いた。


もし大僧正に拒否されたならば、どうするかは決めてあるが――それは最終手段であって、そうならないように必死に本音を綴った。

だから、結果がどうなろうと…恨まないし、後悔もしない。


「………大僧正様…」


文には、流れるような達筆で短く書かれてあった。


『そなたの覚悟は受け取った。安心してこちらで出産しなさい』


ほう、と息を吐いた神羅は、随分重たくなった腹を撫でて部屋から出ると、涼しい風を感じながら目を閉じた。


きっと驚いたに違いないのに、大僧正は自分を責めなかったし、むしろ受け入れてくれた。

妖は徳の高い僧や巫女を狙う傾向にあり、敵と言っても過言ではない存在とただならぬ仲になったことを密告されてもおかしくはなかったのに。


「ありがとうございます…大僧正様…」


――それからというものの、神羅は大僧正との文のやりとりを続けた。

今まで起きたこと、今思っていること、不安に感じていること全てを綴り、大僧正だけが心の拠り所となっていった。


そして臨月を迎える直前、ある夢を見た。

もう、疑いようがない夢を。