その夜の百鬼夜行は鬼気迫るものがあった。

黎の命を狙う妖たちは徒党を組んで黎たちを襲うことが多く、先頭の黎が真っ先に狙われる。

だがこの日の黎は気力が漲り、日々弱っていっていた心も身体も嘘のように軽くなり、刀を振るう様は志を共にしてついて来ていた百鬼たちを陶酔させた。


一刻も早く神羅を迎えに行って、澪と会わせて、わだかまりをなくしてもらう。

神羅と澪と共に暮らせるのなら――それ以上何も望むものはない。


「主さまー、大体片付いたからもう行っていいぜー」


「牙、任せていいか?」


「うん!俺も早く主さまの赤ん坊見たいから早く行って」


小さな声で促してきた巨大な狗神姿の牙が尻尾をふりふりして黎を触りまくると、刀を鞘に収めた黎は、後方に居た朧車を呼び寄せた。

まだ今は冬でとても寒く、神羅と赤子を抱きかかえて飛ぶのは命の危険が伴う。

巨大な女の顔がついた朧車の巨体が近付いてくると、黎はにっこり笑って御簾を上げた。


「ちょっとお前に協力してもらいたいことがあるんだが、いいか?」


「主さまの命ならばなんなりと!」


「俺の妻子を屋敷まで運んでもらいたい。一緒について来てくれ」


「まあ!妻子とはこれ如何に」


「まだ内緒だ、誰にも言うな」


――人との間に子を為したことは、まだ両親に言うつもりはなかった。

いくらあっさりとした性格であっても、人を妻に迎えた例は今までなく、反発は必至。

だからこそ――赤子が成長するまで隠しておくつもりだった。


「さあ、行こうか」


神羅と我が子を迎えに。