小さな澪がさらに小さくなって膝でうずくまっている姿はせつなくて心細く、黎は澪をすっぽり包み込むようにして抱きしめながら、諭した。


「澪…鬼頭家は男子ひとりしか今まで恵まれて来なかった。赤子は…男だった」


「うん…はい……」


「ということは…お前は俺の子を産めない可能性が高い。そんな男の傍に今も居てくれると信じていいか?」


「……離縁…したいってこと…?ううん、まだ祝言も挙げてないから離縁じゃないね…」


「離別は全く考えていないと前にも言ったはずだ。澪…神羅はお前の気持ちを慮っていた。お前のことが気にかかって、今もここへ来ることを拒んでいる」


ようやく顔を上げた澪は、目を真っ赤にしながら首を振った。


「私のことなんて考えなくていいのに。だって黎さんは神羅ちゃんのことが大好きで…」


「澪…俺が何故こんなに神羅に執着しているのか、訳を教える」


澪を愛していないわけではない。

むしろ弱り切っている自分を献身的に看病してくれて泣き言ひとつ言わなかった澪を愛しく感じる機会が多く、本人にそれを伝えたくて必死に明かした。


「神羅が先に死ぬからだ。どうあがいても、神羅は先に死ぬ。俺を置いて、死ぬんだ。だから生きている間はがんじがらめにして俺のものにしたいんだ。…分かってもらえないと思うが、俺がいずれ老いて死ぬ時まで傍に居るのは…澪、お前ひとりだ」


――澪は口をぽかんと開けて、黎の胸元をぎゅっと握った。

…ということは、黎は三人目の妻を持つつもりはなく、神羅は先に死ぬ――

そうなれば…黎は自分だけのもの。


「私…だけ?それって…喜んでいいの…?」


「喜べ。俺は神羅もお前も大切にする。不公平にはしない。お前たちが許すならば、三人で共に寝る。それ位は余裕でお前たちのことを愛している」


…覚悟を決めた。

いずれ、黎は自分だけのものとなる。

それまでは例え神羅を優先したとしても、待ち続けていられる。


「黎明さん…私たち鬼族って、独占欲が強いよね」


「…そうだな」


「黎明さんは私があなたじゃない男の人と会ってたらどう思う?」


「…その男を殺す」


「ふふっ、でも私は違うよ。神羅ちゃんを受け入れて、一緒に黎明さんを愛したい。黎明さんの赤ちゃんは私の赤ちゃんでもあるよね?一緒に育ててもいいよね?」


「澪……」


ふわっと笑った黎に力いっぱい抱き着いた。


神羅には悪いけれど、いずれ自分のものになるのだと分かった途端――全てを受け入れることができた。


「黎明さん、明日神羅ちゃんを迎えに行ってね。私、待ってるから」


「澪…ありがとう」


感謝してもしきれず、澪を抱きしめ返した。