伊能がやって来ると、黎は部屋に結界を張って出入りと音の遮断を行った。

密室となったことで伊能は黎の前に座ると背筋を正して深々と頭を下げた。


「お呼びでしょうか」


「伊能…朝廷に行って様子を探ってきてくれ」


「様子…とは?」


「…帝の様子だ。祝いの品を用意するからそれを持って…」


「主さま。今ここには私以外誰も居りません。何を憂いておられるのですか?」


黎はしばらく逡巡した後、自身の胸元をぐっと掴んで何かに耐えながら、伊能にだけ本音を語った。


「…あれが身籠ったのは…俺の子かもしれない」


「…それは……なんと…」


伊能が言葉を失うと、黎はぎゅっと目を閉じて唇を噛み締めて押し殺した声を上げた。


「もしそうなら…そうだとしたら……俺はあの地獄から神羅を攫ってくる」


「…畏まりました。帝にお会いして確と確認して参ります」


「頼んだぞ。必ず本人に問い質して来てくれ」


頷いた伊能が部屋を出て行くと、黎は頭を抱えて壁にもたれ掛かった。


――あの一夜、数えきれないほど神羅を抱いた。

鬼頭家は元々男子ひとりしか生まれてこないため、自分の子である可能性はとても低い。


そうなれば…澪との間に子が生まれることはない。


もし自分の子ならば、どんなに恨まれようとも、朝廷から追われようとも――もう離すつもりはない。


「頼む…そうであってくれ…!」


祈った。

何に祈ったのか分からなかったが、祈り続けた。