黎は頻繁にうなされた。

胸をかきむしっては高熱が出て息を荒げながら苦しみ、その度に澪はそんな姿の黎を誰にも見られぬよう黒縫を部屋の前に座らせて看病し続けた。


恋焦がれるあまり、身の内から噴き出る炎に焼かれている――


だが夜が来ると、黎はけろっとした顔をして百鬼たちに声をかけてはあんなに苦しんでいたのが嘘のような姿を見せていた。

澪がそれが心配でたまらなかったが――黎は‟大丈夫だから”と言って看病してくれる澪に感謝して抱きしめて何度も頭を撫でた。


「黎さん、大丈夫?つらくなったら切り上げて戻って来てね」


「大丈夫だ。澪…いつもありがとう」


「ううん…」


――あれから三月が経った。

その間黎は一日も休まず百鬼夜行を続けていて、その成果も表れ始めていた。

人を襲う妖が明らかに減ってきている――

だが徒党を組んで向かって来る者も出てきていて、一時も気が収まらない状況は続いていた。

その間神羅が妖を殺せる武器を全て回収して蔵に封じたという報告を伊能を通じて受けていた黎は、なおいっそう討伐に励みながら無心になって戦い続けた。


そして――

朝廷からとある発表が立札に貼り出され、、百鬼夜行から戻って来て眠っていた黎は、玉藻の前たちがざわついている声を耳にして起きると部屋の外に出た。


「ぬ、主さま…」


「玉藻…どうしたんだ?何かあったのか?」


「こ、これを…。主さま、どうかお気を確かに」


澪は俯いて黙っていた。

黎は不安を覚えながら、玉藻の前が差し出した紙に書かれていた内容を見て――息が止まった。


『帝、ご懐妊』


息が止まって――手で口を覆って立ち尽くした。