その夜――黎は澪の願いを叶えるべく、御所の上空を行くことにした。


何度も躊躇しては悩んだが…

会うのは禁じられていたためせめて上空だけでもと思い止まり、玉藻の前を隣に置いて百鬼夜行に出た。


百鬼たちは陽気な者が多く、それも前日大成功を収めていたためそれぞれが太鼓を打ち鳴らしたり笛を鳴らしたり、やかましく音を立てながら空を飛んだ。


平安町の者たちは罪を犯せば妖に食われる可能性があることを知っていたため、上空を百鬼夜行が行くと、それを恐れて戸を固く閉めて家に引き篭もった。


神羅と交わした契約の中には、幽玄町内で罪を犯した者がさらに罪を犯して心を入れ替えぬ者が出た場合は食ってもいいことが明示されてあった。

罪を犯していない者には絶対に手を出すなと黎からきつく言われていた百鬼たちは素通りしたが、人々はそこまでの詳細を知らないため、身を寄せ合いながら恐怖に耐えていた。


「主さま、そろそろ御所の上空ですわよ」


「…上を行くだけだ。通り過ぎたら速度を上げて現場に向かう」


「承知」


――遠くから楽器を打ち鳴らしている音が聞こえていた。

近衛兵たちが色めき立って上空を見上げていたが、異変に気付いて神社から出た神羅は、上空を行く多くの妖を見て息が止まった。


「黎…っ!」


遥か上空のため、姿を確認することはできなかった。

だが――その先頭に居るのは、黎に違いない。


「黎…私の主さま…約束を、叶えてくれたのですね…!」


これ以上私があげられるものは何もないけれど――


「黎、苦しめてごめんなさい。でも私…生涯ずっと、黎しか愛さない。それだけは、疑わないで」


百鬼夜行が通り過ぎて行く。

神羅は彼らが見えなくなっても庭に立ち尽くし、黎に想いを寄せ続けた。