鬼頭の当主が数多くの妖を従えて、同じ妖を制裁している――

その夜を境にすぐその情報は知られることとなり、しかもその多種多様の面子に驚愕を覚えた人に悪意を持つ妖たちは反抗したものの、次々と先頭を行く黎にあっさり命を奪われていった。

初日から何十もの妖を手にかけ、罪の意識を持つかもしれないと考えていた黎だったが――何の感慨も持つことがなかったことに安堵していた。


いちいち罪悪感など覚えていたら、この先やっていけるはずがないのだから。


「主さまー!初日から大成功!これってもしかしてすんげえ抑止力になるんじゃ…」


「今気付いたのか?毎夜百鬼夜行を行えば人を殺めていた者もなりを潜める。なりを潜めなければ、俺が殺す。牙、お前もよくやってくれた。後で労ってやる」


わお、と嬉しげな声を上げた牙と上空で肩を並べていた黎は、白みかけた空を眩しそうに見上げて刀を振って血糊を飛ばした。

百鬼は誰ひとりとして命を落とさなかった。

多少の怪我を負った者は居るものの、それぞれが種族を超えて仲間を庇い、志を同じくする者同士うまく共闘していることに手ごたえを覚えた黎は、幽玄町に戻って出迎えてくれた澪と玉藻の前にうまくいったことを伝えた。


「ご苦労様でしたっ。ねえ主さま…神羅ちゃんは昨晩から百鬼夜行が行われてること、知ってるかな…」


「…さあ、知らなくても別に関係ない。これが俺のやり方で、あれは俺に一任している。…澪、お前寝ていないのか?」


黎が帰って来るまで心配で眠れなかった澪が頷くと、黎は澪の肩を抱いて百鬼を解散させて風呂場へ向かった。


「疲れたような気がするが、眠れない気もする。澪…一緒に寝てくれるか?」


「うん、そのつもりで待ってたよ。ねえ黎さん…」


ふたりきりの時は名を呼ぼうと決めていた澪は、風呂場に着いて黎の着物を脱がしてやりながら、ひとつだけ我が儘を言った。


「今日の夜も百鬼夜行するんでしょ?黎さん、お願いがあるの。今日だけでいいから…御所の上空を飛んでもらえない?神羅ちゃん、きっと喜ぶから」


「……考えておく」


澪と共に風呂に入り、だが抱きたいという欲求は沸かず、ただただ澪を抱きしめて眠る――

だが澪は文句のひとつも言わず、傍に居続けた。

それが己の役目だと知っていたから。