千一夜物語

朝廷からの発布の内容に人々が驚き、戦慄を感じていたのだが、数日後貼り出された発布は――


帝が婿を迎える――という内容で、不安だった人々はその報を大いに喜び、平安町は祭りのような大騒ぎになった。

彼らからすれば帝は殿上人であり、その姿すら見たことはなかったが、国の礎となる存在の情報を耳にする機会もほとんどなかったため、幽玄町のこともこの時だけは忘れようと盛り上がっていた。


黎は数日間幽玄町には戻らなかったが、さすがに疲労困憊を極めて幽玄町の屋敷へ降り立った。


「主さまっ、お帰りなさい!」


「ああ。玉藻、何も問題はなかったか?」


「ええ。朝廷からちょっとした発表はありましたけれど」


「なんだ?」


澪と玉藻が一瞬顔を見合わせたのを見逃さなかった黎は、火車が口にくわえていた紙を手に取ると、書かれていた内容を見てみるみる表情が険しくなった。


「あ、あのね、主さま…」


「…こんなのは最初から知っている。捨てておけ」


くるりと背を向けた黎が風呂場に向かうと、澪はその後をちょこちょこついて行きながら袖を握って立ち止まらせた。


「知ってたの?」


「知っていた。それがあれの望みなのだから、俺が口出しできるはずがない」


「でも…神羅ちゃんは主さまのこと…」


「…俺と共に在ることよりも、己の責務を選んだだけのこと。澪、これから忙しくなるぞ。約束を取り付けてきたから、近いうちここに俺と契約を交わした百鬼たちがやってくる。仲良くできるな?」


「うん!主さま、背中流してあげる」


「ん、頼む」


黎は数多くの妖と契約を結び、その数は百を優に超えていた。

ここに百鬼たちが集まれば、百鬼夜行を行える――


「…お前の望むようになったぞ、神羅」


ぼそりと呟き、風呂に入った後束の間眠りに落ちた黎を澪が抱きしめながら眠る――


満たされない黎に少しでも癒しを。

少しでも、安らげるように――