千一夜物語

幽玄町に残った澪は、傍で目を光らせている玉藻の前のせいでうろちょろすることができず、縁側で月夜を見上げながら足をぶらぶらさせていた。


「玉藻さん、一緒にお酒飲みませんか?」


「…頂戴いたしますわ、ちんちくりん」


何故か玉藻の前からちんちくりんと揶揄されていたが別に嫌な気持ちにはならず、持たせた盃に酒をなみなみと注いだ。


「黎さん…主さま大丈夫かなあ」


「大丈夫も何も当然でしょう。主さまはわたくしたちを率いて導いて下さるお方。…だからこそちんちくりん。あなたの存在は今後主さまにとってかけがえのないものとなるでしょう」


「え、なんで?」


いらっとした玉藻の前は、酒を一気飲みして澪の手から徳利を奪い取ると、自ら酌をしながら鼻を鳴らした。


「鬼族は恋情が過ぎて身の内から炎に焼かれて死ぬ病がありますね?主さまもその病に罹る可能性がありますでしょう?」


「…神羅ちゃんのこと?」


「ええ。あなたのことも大切なのでしょうが、今後長く共に在ると分かっているのですから、傍から離れて主さまの想いに応えなかった帝への想いは増すばかり。そこであなたの出番というわけです」


澪は恐る恐る玉藻の前のふわふわの尻尾に手を伸ばして撫でた。

ちらりとそれを見られたものの怒られなかったため、撫で続けながら俯いた。


「私が…主さまの歯止めをするっていうこと?」


「主さまの妻として在りたいのならばそうする他ありません。あなたとて帝は先に死に、その先は主さまを独り占めできると心のどこかで思っているはずです。違いますか?」


「…ううん、違わない…ね…」


本当はどこかでそう安堵していた。

そんな自分を醜く感じた澪は、心配して身体を寄せてきた黒縫を抱きしめながら鼻声で打ち明けた。


「神羅ちゃんのことも好きなのに私ったら…。酷いよね…」


「…うまく折り合うことですわね。ただあなたも失えば主さまは自滅します。ちんちくりん、正念場と思いなさい」


発破をかけてくれたのだと気付いた澪は、玉藻の前が悲鳴を上げるほど尻尾を撫で回し続けて気合を入れた。


「私、頑張る。主さまの笑顔が戻るように。私も笑えるように!」


そして神羅も笑えるように――