千一夜物語

油断すると受けたこちらの腕がへし折れてしまいそうな力で刀を振り下ろしてくるのを流水の如くしなやかさで受け流し、鞘でその足を打っては距離を取る。

黎は決して力で向かっていくことはせず、まだ若く気が逸って攻撃してくる若者たちをいなした。

――彼らは黎に勝ちたい気持ちはあれど、こうして刀を交えることがただ嬉しく、黎がこの実家で可愛がっていた獣型の多くの妖たちが吠え声を上げて声援を送る中、汗一つかかず涼しい顔をしている黎に傾倒していった。


「ふん、最初から負け戦をしおってからに。黎様に挑んで勝てるわけなかろうが。あのお美しい顔を見ろ、強さなど外見から分かるというもの」


「まあまあ長老たち、あれらは黎明と刀を交えたいだけだろう。で、提案を呑んでもらえるのかな?」


「人を襲う妖の情報を流せばいいんだな?で、恨みを持って向かって来る妖を殺してもいいということだろう?」


「簡単に言えばそういうことだろうな。黎明の傍で共に戦う者も募集中だそうだが」


縁側で彼らが戦っている様を眺めていた黎の父は、のほほんと茶を飲みながら笑った。


「あれがはじめて何かに打ち込み、命を投げ出してまで為そうとしていることだ。親として応援せぬわけにはいかん」


「命を投げ出されては困る。鬼八の封印は分家の者ができたとしても効力は弱いと聞いている。人と縁…か」


黎は具体的な詳細を語ってはいなかったが、それは問題ではない。

求められていることをただこなす――元々鬼族は戦うことが大好きな者が多いため、むしろ向かって来られるのは血沸き肉躍るというもの。


「若い者らには経験を積ませることもできるし、一石二鳥だな。長よ、我々は条件を呑もう。他種族の者たちにも触れを出して同志を募ってみよう」


「それはありがたい。黎明自身が他種族の集落を回って声をかけるかもしれんが、よろしく頼む」


少しずつ、輪が広がってゆく。

黎は無心で戦い続けた。

そうすれば――神羅のことを思い出さずに済むから。