千一夜物語

溺愛体質の者が多いのは十分熟知していたため、父が伸ばした手を払いのけた黎は、とりあえず約束を取り付けることができてようやく息をついて笑った。


「もっと揉めるかと思ったが」


「お前は当主だし、決定権はお前にある。だが俺に話をしてきたということは…俺が影の支配者だと知っているからだろう?」


「そうだ。俺はまだ若く信頼されていない。親父が声をかけてくれればきっと皆も協力してくれ…」


「信頼されていない?ふふ、どの口がそれを言うのやら…」


「?」


――相変わらず周囲から圧倒的信頼を得ていることに気付いていない黎が首を傾げると、父は背中半ばまである長い髪を背中に払って言い聞かせた。


「いいか黎明。力こそが全てだ。俺が話をつけてやるが反発されるだろう。そうなった時、勝負ごとに持ち込まれることもある。勝てば従い、敗ければ反発する。お前は勝ち続けなければならない。できるか?」


「死に物狂いでやる。これだけは…俺が生涯を賭して為さなければならないんだ。必ず…」


覚悟に目をぎらつかせた黎をじっと見つめた黎の父は、座椅子に身体を預けて腕を組んだ。


「嫁とはうまくやっていると言っていたが…子はできそうか?」


「…いずれできる」


「嫁はひとりではなく二人以上居た方がいい。世話をしてやろうか?」


黎は父をまっすぐ見つめて、淀みなく本音を語った。


「…嫁にしたい女なら、もう居る」


「おお、そうか。嫁に来てくれそうなのか?」


「……親父、なるべく早急に話を付けて欲しい。俺はここに長居するつもりはない」


「ふむ、分かった。長老たちを至急呼び寄せるから待っていろ」


父が部屋を出て行くと、黎はうなだれて呟いた。


「何を言っているんだ俺は…」


――牙は黙り込んだ黎の背中に身体を何度もすり寄せた。

とても独りにさせることはできない――

何度も何度も身体を擦りつけて、温もりを与えたくてきゅうんと鼻を鳴らした。