千一夜物語

夜明け頃幽玄町を発った黎は、遥か東にある実家に牙と共にかなりの速さで向かっていた。

やらなければならないことが山のようにあるため、整理するのも一苦労だったが――家を飛び出てからはじめて父親と対面する黎は、深いため息をついていた。


「会いたくないな…」


「んでも澪が来た時主さまの父ちゃんの文持ってたじゃん?怒ってはいないんじゃね?」


「俺と会う自体なんとも思っていないと思うが…話の内容が突飛すぎるからな」


――この日の朝発つ前に、平安町のそこここの立札に、朝廷からの発布が貼り出された。


『今後重罪人を中心に、浮浪町改め幽玄町で隔離、妖の支配下の下勤労すべし』


それ以上の詳細は書かれておらず、平安町の住人たちは幽玄橋に殺到して、橋の中央に立っている赤鬼と青鬼の姿を見て戦慄していた。


…きっとこの情報は父の耳にすぐ入るはずだ。

幽玄町に住住み、牛耳っているのは自分だと父は知っているのだから。


「主さまの父ちゃん気難しいのか?」


「いや、逆に楽観的すぎて鬱陶しい。だが鬼八の封印のことだけは口を酸っぱくして昔も今も説教される」


玉藻の前は澪の護衛として残して来た。

自分の動きも素早いと自負していたが、神羅も同じ位素早く行動に移しており、まるで離れていても心は繋がっているようで、ちりりと胸が痛んだ。


「着いたー!うわーっ、でっけえ家だなー!」


黎の家は山頂にあり、幽玄町の屋敷よりも遥かに大きな敷地を誇っていた。

すでに息子の帰りを予期していたのか庭には小さく手を振っている父の姿があり、黎は軽く手を挙げて応えながら庭に下りた。


「放蕩息子がようやく帰って来たか」


「用があるから帰ってきただけのこと。…親父、大事な話がある」


「朝廷から発布された件か」


…すでに耳に入っていて、またため息。