千一夜物語

鬼族は強靭で驚異的な体力を持っているが――さすがに疲れ果てた黎は、明け方が近付いた頃に少しだけ眠った。


――神羅は文句のひとつも言わずしがみついて、背中に爪を立てて、何度も‟愛している”と言ってくれた。

もし本当にそう思ってくれているのなら、なぜ別れなければならないのかと思うと――悔しくて愛しくて、頭の中が空っぽになるまで神羅を抱くことで何とか発散させようとしたが――無駄だった。


何度も何度も神羅に全霊を注いで、どうしたら‟一緒に居たい”と言ってくれるのか考えたが――神羅はそれを一言も発することはなかった。


「ん……神羅…」


傍に眠っているはずの神羅を夢現に手を伸ばしてまさぐったがその姿はなく、はっとして身体を起こした黎は、神社内にその姿がないと分かると素早く着物を着込んで外に飛び出た。


空は白み始めていて来ないで欲しいと願い続けた夜明けが来てしまったことに舌打ちしながら御所に向かったが――

神羅の部屋の前で数多くの近衛兵の姿を見て、足を止めた。


「…そこを退け」


「いけません。神羅様は誰にもお会いしたくないとのこと。どうかご理解ください」


近衛兵たちは黎を妖だと知っていたが、今まで神羅を守り続けてくれたことに最大の敬意を払いながら頭を下げた。


神羅が業平を夫に選んだことはすでに朝廷内では知られている。

だからこそもう、他の男においそれと会わせるわけにはいかないのだ。


「退け。神羅に会わせろ」


「黎…と言いましたかそなたは」


黎に声をかけたのは神羅の部屋から御簾を上げて出て来た業平で、射殺すような目で睨んだ黎は、持っていた刀に力を込めて押し殺した声を上げた。


「…神羅を出せ」


「もう今後一切会いたくないとのこと。そなたにも理解をしてもらったと聞いていますが」


理知的で冷静な男の物言いに歯噛みした黎は、勝ち誇ったような笑みを浮かべた業平に現実を突きつけられた。


「神羅様は私の妻となる。そなたは所詮臨時に雇った用心棒。神羅様から金輪際会わぬと伝えられたはず。男ならばこれ以上四の五の言わぬ方がいい」


「…貴様…!」


本当に、もう終わりなのか――?


半身を捥がれたような思いに、身体が傾いた。