千一夜物語

もう今日を境に神羅とは会えなくなる――


想い合っているのにそんなことがあっていいのかと目を見開いて歯を食いしばった黎にゆっくり抱き着いた神羅は、全ての想いを吐露してすっきりして黎の背中に腕を回した。


「我が儘でごめんなさい。だけど黎…澪さんのためにも私は居ない方がいいの。それに…私ひとり老いてゆく姿をお主には見られたくないから」


「そんなの…そんなのは俺がお前の寿命を少しでも永らえさせる薬を探し出して…そして…」


「黎…それでも私は先に死ぬのよ。しわくちゃになってお婆ちゃんになった私をお主は愛せるの?私は嫌だわ。そんな姿、絶対に見られたくはないの」


「だから…もう…会いに来るなと…?」


――神羅は恥ずかしさで爆発しそうになりながらも、黎の膝に乗ったまま黎の胸元に手を入れて上半身を脱がせて息を止めさせた。


「未練は残したくないの。だから今夜…この一夜をお主に捧げるわ。だからお主も…今夜だけは私に全てを捧げて」


「…神羅」


もうどんなに説得しようとも神羅の意思が揺るがないと分かると、激情が去った黎は神羅の帯に手をかけてゆっくり外すと、その細い肩にこつんと頭を預けた。


「もう…心は変わらないのか?」


「ええ、変わらない。黎…今まで私を守ってくれてありがとう。私…ずっとお主を忘れない。お主と過ごした日々を思い出に生きていくわ。黎……」


ゆっくり押し倒された神羅は、目尻に涙が伝うのを感じながらも、この一夜だけは黎を独り占めできる幸福感に満たされて、近付いて来る黎の唇を待ちながら、目を閉じて囁いた。


「私の主さま…この一夜を胸に…これからの千夜を、主さまを想いながら生きていくわ」


「神羅…!」


もう会えなくなると分かると、過ぎ去った激情が戻って来て、黎の身も心も焦がした。


主さま――

繰り返しそう囁く神羅を今夜壊すことができたならどんなにいいだろうかと思いながら――


まるでその身を食らうようにして、貪るように愛した。