千一夜物語

今愛の告白を受けたばかりなのに――

自分とではなく業平と夫婦になると言われて衝撃を受けた黎は、神羅の腕を強く掴んで揺さぶった。


「ふざけるな!俺は必ずお前を嫁にする!絶対にだ!」


「黎!私はこの国を動かし、背負う者!私の代で途絶えさせるわけにはいかないのです!…お主には澪さんが居るでしょう!?私には伴侶を得て子を生み、次世代へ繋げる義務があるのです!」


「お前は…っ!お前はいつもそうやって自己犠牲に走るんだな!お前が居なくとも国は勝手に続いていく!思い上がるな!」


「なんと言われようと!私は決めたのです!私は…っ、私はお主を愛しています。それは疑わないで。黎…だから私は、お主との繋がりを持ちたくて、この契約を考えたのよ。黎、私は真剣なの」


敬語をやめて素を見せた神羅を食い入るように見つめた黎は、それでもあの業平と言う男に神羅を奪われるのが我慢ならず、息を荒げてそれを否定した。


「駄目だ、許さない!お前の契約は飲んでやる。だが対価として、お前を俺に捧げろ!お前の全てを手に入れないと俺は納得しないぞ!」


激しい独占欲を見せる黎に嬉しくなった神羅は、目に涙を浮かべながら――黎の頬を両手で包み込んでなんとか笑みを作って見せた。


「私の全てを捧げるわ。黎…お主に全てを。この一夜だけ、お主と夫婦になりたい」


神羅は自身が纏っている白無垢を見下ろして、打ち掛けをゆっくり脱いだ。

息を詰めて見つめてくる黎の両手を握って、不安に揺れながらも再度、想いを告げた。


「業平と夫婦になるけれど、私の心はお主のもの。この身体も魂も、全て。だから黎……」


言葉を切った神羅は、唇を震わせながらも最上の笑みを見せて、黎の耳元で囁いた。


「金輪際、もう私に会いに来ないで」


心臓が凍りつく――

心が打ち砕かれて粉々になりながらも、神羅の手を離さなかった。