千一夜物語

それは決定的な言葉のように思えた。


神羅は自分を好いていて、離れ難く思ってくれている。

人としての寿命を全うしてもなお自分と繋がっていたいと思っていて、人と妖との間に不可侵条約を結んで対立を避け、またそれを成し遂げるのだと信じ切っている。


「待て、神羅…お前…お前は…俺を…」


「互いにはっきりと明言は避けていましたね。ですが、今は…今だからこそ、ちゃんと伝えます。黎…」


神羅は、黎が髪に触れていた手を取って自らの頬にあてると、花開くように微笑んだ。


「私は、お主を愛しています。これからも、永遠にずっと」


「…神羅…」


――猛烈に幸福感に満たされて、神羅の腕を掴んで抱き寄せて膝に乗せた黎は、それでもどこか悲しげにしているのが気にかかって鼻を甘噛みした。


「黎…お主は私をどう思っていますか?まだ食い物だと思っていますか?」


「…俺もお前を愛している。早い段階からお前は食い物には見えなくなっていた。神羅…」


頬に雨のような口付けを受けてくすぐったくてまた笑った神羅は、黎の口元に手をあてて少し身体を引くと、その切れ長の美しい目を見つめた。


「だとすれば、今後お主は人を食うことはない…そうですね?」


「…少なくとも俺はそうする。お前を嫁にできるなら」


「……」


――神羅は黎の膝から下りると、背筋を正して頭を下げた。


「ごめんなさい、黎。私はお主の元には嫁げません」


「…なに…?」


「私は…業平と夫婦になります」


「…っ!?」


幸福感が一気に消え失せた。

絶望に突き落とされて、言われた意味が分からず言葉もなく神羅を見つめ続けた。