千一夜物語

浮浪町の住人にも被害が及んでいた。

悪路王側の妖の一部が住人たちを襲い、食い散らかし、被害は決して小さいものではなく、この日も死者を火葬して空き地の一部に墓地を作り、そこに埋葬させた。


そうしているうちにすぐ日暮れが近付き、壊された建物の補修や仲間の怪我の治療などをして忙しく過ごしていると――黎の待っているものが届いた。


「黎様、女帝から文が届いたぜ」


「…分かった」


隣には澪が居たが、澪には隠し事はしたくない。

澪にも見えるようにして文を開くと、そこには一言だけ達筆な文字で書いてあった。


‟夜半の頃、御所にてお待ちしています”。


…これが最後になってしまうのか、と嫌な予感がよぎると、澪は黎の袖を強く掴んで引いた。


「黎さん…今日は戻って来なくていいからね」


「…え?」


「戻って来なくていいから、神羅ちゃんと一緒に居てあげて。どんな結果になったとしても私は受け入れるから。私は…待ってるから」


「澪…」


これで終わりなはずがない。

神羅は絶対に自分を好いてくれているし、自分から離れて行くはずがない――


――黎は気遣ってくれた澪の肩を抱いて、真っ赤な夕焼けを見上げた。


澪は同じ鬼族で、いずれ子を為さなければならない自分の生涯の伴侶となる――それは揺るぎない。


神羅は人ではあるが、その気性も美貌も鬼の者と言われてもおかしくないほどに気高く美しい。


両方とも、手に入れる。


「俺は欲張りだから、欲しいものは全て手に入れる」


必ず、お前を手に入れる。