久々にちゃんと入浴できた神羅は、傷口がまだ沁みたがそれよりも熱い湯に浸かれたことが嬉しくて、首までしっかり浸かって吐息をついた。


「澪さん…何があったか訊いてもいいでしょうか」


「うん…あのね…」


何もかいつまんで話すことなく全てを神羅に明かすと、それまで手拭いで身体を隠していた澪は胸元にちりばめられた唇の痕を見せて神羅を驚かせた。


「あ、あの…それは…」


「これは…ほとんどが黎さんのだけど…違うのもあるの。それがすごく嫌で、自分でもびっくりしたの」


――澪は黎に抱かれたのだろうか、と内心思ったつもりがそれが顔に出ていたらしく、澪は慌てて手をぶんぶん振ってそれを否定した。


「違うよ、まだ違います!でも神羅ちゃん…私たち、多分時間の問題だよ?黎さん欲張りだから、私と神羅ちゃん両方お嫁さんに絶対するって思ってるから」


「…そうですか」


「だから!神羅ちゃんも諦めて下さい!」


…澪の潔さは正直好きだし好感が持てる。

思わず笑みが漏れた神羅は、澪の胸元をちらりと見てはにかんで天井を見上げた。


「…諦めていますよ」


「そっか!それは良かった!黎さんもとっても喜ぶよ!」


良い意味で捉えた澪をがっかりさせるのが嫌で、それを否定することなく儚く微笑んだ神羅は、澪に今後の予定を打ち明けた。


「澪さん、私は御所へ戻ります」


「え…でも…」


「やるべきことが沢山あるので。これでも私はこの国を動かす立場にあるのですよ」


「そっか…でもまたすぐ会えるよね?」


「……澪さん、身体を洗ってあげましょう。私の背中も流してもらえますか?」


「うん!」


別れの言葉は告げない。

出会えたことに感謝して、心の中で黎をよろしく頼みますと願って、澪との最後の時を過ごした。