千一夜物語

黎がこの戦いに勝てば――どうしたらいいのだろうか。


妖と人――種族として相いれない存在の両者が夫婦になる…そんなことが本当にまかり通るのだろうか?

その前に自分は帝であり、唯一の直系として婿を取って子を作らねばならない。

遠縁の者は居るには居るが、習わしとしては直系の者がこの国を動かしていくこと…そう決まっている。


「…ふふ、私は所詮籠の中の鳥」


好いた男に好かれた奇跡――それだけでも生涯の思い出となる。

これが全て終わったならば、一度だけ…

たった一度だけでいいから、黎と一夜を共に。


「来ましたわね、雑魚共が」


あらかじめ浮浪町の住人たちは屋内に避難させた。

それで無事とは言い切れないが、彼らの命が失われてはここまで支援してやった黎が傷ついてしまうかもしれない。

箱座りして待ち受けていた玉藻の前は、地平線の彼方が真っ黒になっているのを見て金色の目を細めた。


「数が多いですわね。結界で半分は死ぬでしょうが…久々に全力を出すとしましょうか」


黎と共に張った結界はおいそれと全ての妖を通過させるような生半可な代物ではない。

通り抜けようとしたと同時に効力は発動して、徒党を組んでいた悪路王の仲間は雷に撃たれたかのように全身が黒焦げになり、次々と落下していった。


だが屋敷を離れてしまうと神羅の身を守ることができなくなるため、それを遠めに見ていた中、真っ白な何かに乗った者が近付いて来るのが見えて遠見の術を使ってその姿を捉えた。


「悪路王…。右腕がありませんわね」


初見ではあったが傷を負っているのならば黎にやられたのであり、禍々しい妖気からしてそれが悪路王だと判断した玉藻の前は、すくっと立ち上がった。


「さあおいでなさい!わたくしが殺生石に封じられていた間にため込んだ妖気、その身に受けるがいい!」