千一夜物語

夜半を過ぎた頃――簡易的ではあるが家が完成すると、住人たちは恐る恐るという体でそれぞれが家に入ってみて顔を見合わせていた。

とりあえずまずは雑居という形を取り、個人の家は持たせない。

浮浪町で畑や商売を始め、それに成功すれば個人の家を持つことができ、何もしない者はいつまでも雑居のまま。

また盗みや殺しを行えば雑居さえも許さず浮浪町から遠く離れた山林にて放置――そう聞かされた住人たちは、説明をする玉藻の話の内容に徐々に目の色を変えていった。


「まずは空き地を開墾した後野菜などを育てること。種はこちらで用意いたしますわ。そして技術のある者は名乗り出ること。こちらで必要なものを用意いたしますわ。ただし…無償ではありません」


「か、金を取るのか…?」


玉藻の前は牙よりも明るい金色の目をきらりと光らせて皆を委縮させると、腕を組んで元々豊満な胸をさらに盛り上がらせて見せた。


「当然のことですわよ、ただし商売が成功してからでいいと我が主は仰っています。お前たちが性根を入れ替えて働くこと、それを望んでおられますのよ。できない者は直ちにこの町から去ること。こーんないい条件はありませんことよ」


――そう言われればそうだ。

人生を諦めた者が多い中、以前商いをしていた者も居れば畑を持っていた者も居る。

皆で性根を入れ替えて働けば…諦めていた人生をやり直せるかもしれないのだ。


「お、おい、誰か橋を渡って来るぞ」


自ら平安町から橋を渡って来るものは珍しく、しかもその人物はいくつもの牛車を引き連れて彼らの前で止まった。


「黎様、来たぜ」


屋根の上からそれを見ていた黎は橋を渡り終えたところで止まったその男の元へ行くと、中年の髭を生やした男は深々と頭を下げて黎に笑いかけた。


「黎様、お力になるべく馳せ参じました」


「伊能、お前の商売魂を試す時が来たな。命を救った貸しを返してもらおう」


…人だ。

ざわざわとさざめく住人たちとは対照的に伊能と呼ばれた男はまた深く頭を下げて、牛車の御簾を上げてまた彼らを驚かせた。