千一夜物語

浮浪町の全体は、ほぼほぼ更地と成り果てた。

黎は屋敷に戻って屋根に上がってそれを眺望しながらわらわらと動き出した玉藻の前の人型たちを見ていた。


「玉藻、いつ頃できる?」


「そうですわね、夜半までには」


「牙たちに木材などを追加させる。できるだけこれに沿って建てろ」


黎が玉藻の前に手渡したのは浮浪町の全体図に黎自身が筆で区画を分けて建物を造る場所を指定した図で、玉藻の前は目を丸くして覗き込んだ。


「黎様はなんでもおできになるのね…」


「そこそこいい家に生まれたからな、大体のことはできる。玉藻、これに沿って建物を造れ」


「承知」


妖たちがてきぱきと動き、ようやく動いた黎は空き地に集められた住人たちの前に立ち、恐怖に引きつる彼らの前で腰に手をあてて静かに口を開いた。


「俺は妖だ」


皆が押し黙ったが、黎は構わずわざと饒舌に低い声で語り出した。


「お前たちが怪異と呼び、物の怪と呼び、妖怪と呼ぶ類の者だが、訳あってしばらくここに住むことにした。だがお前たちは汚く働く気もない。ただただ息をしているだけだ。それは俺の性分が許さなくてな」


「は…はあ…」


「薄汚い建物も全て壊した。そして新たな建物を造り、雨風をしのげる場所を提供する。だからちゃんと人らしく暮らせ」


「な…何故そこまでして頂けるんでしょう…?」


黎は眉を上げて大胆不敵に口角を上げて笑むと、肩を竦めた。


「俺はきれい好きなんだ。ちなみにお前たちにはちゃんと働いてもらうぞ。己を蔑んで生きるな。今の俺の評価はお前たちは獣以下だ。せめて獣以上人以下になってもらう」


黎の大胆な改革が始まった。