千一夜物語

壊す行為はとても楽しく、牙は金色の目をぎらつかせながら鋭い爪を振るい、建物を壊していった。

その際も黎が見える位置に留まり、木っ端みじんになった木材が降り注ぐ中を人が逃げ惑う様子が楽しくて、腰が砕けてしまうようながなり声を上げて破壊行動を続けた。


「どこが正義の味方だ」


「黎様、玉藻は次はどのように?」


「人の誘導が終わったら直ちに建設を始める。できるか?」


「わたくしがいかに有能かを見て頂く時!もちろんできますわよ」


長く生きてきたために無駄な知識も多く、朝廷に見られる寝殿造りではなくちゃんと雨風をしのげる建築物の知識があるため、火車が他の妖と共に木材を運び去ると、狐顔の人型に命じた。


「さて始めますわよ。馬鹿狗!降りて来て手伝いなさい!」


「えー!?なんでお前に命令されなきゃいけねえんだよ!」


「牙、手伝え」


「了解!」


黎の鶴の一声ですんなり屋根から降りて来た牙が黎の傍へ行くと、黎は傘を被った小さな子の姿をした雨降り小僧の傘をぽんぽんと叩いた。


「だがまだ匂いがすごい。雨降り小僧、大雨を頼む」


「あい!」


火車の雷鳴が止むと今度は雨降り小僧が空に向けて両手を広げた。

すると一気に大粒の雨が降り注いで、空き地に集められた住人たちを一瞬でずぶ濡れにさせて茫然とさせた。


「俺たちは死んでしまうのか…?」


「せっかく建てた家が…」


妖に囲まれて死を覚悟する中、彼らは襲い掛かることもなく監視するだけ。


――そして平安町と浮浪町を繋ぐ橋の手前には、浮浪町にのみ垂れ込める暗雲と大雨を見て足を震わせている近衛兵たちの姿があった。


「なんだあれは…」


「妖か?帝にお伝えせねば!」


また平安町に住む平民貴族全ての住人たちも地獄絵図のような恐ろしい光景にただただ震えることしかできず、破壊音の続く浮浪町を見つめる。


浮浪町に妖が住み着いている――その報はすぐ帝…女帝に知られることとなった。