千一夜物語

翌朝すぐに大量の木材や工具などが用意されると、黎は軽い動作で縁側から立ち上がって玉藻の前に命じた。


「よし、行くぞ」


「黎様、まだ何もお聞きしておりませんけれど…」


黎は集まった数十名の妖たちを見回して、八重歯を見せてにやりと笑った。


「浮浪町の全ての建物を破壊する」


「へっ?なんで…」


「ここは汚いし臭い。こんな所に住むのは俺の矜持が許さない。だから一度全部壊して建て直す。そのために木材を集めたんだからな」


妖たちが顔を見合わせた。

元々個で活動している彼らは通常集団生活はしないし、ましてや人のために動くなどもってのほか。

だが黎はさも楽しそうな表情をしていて、玉藻はその黎の顔を見てこくんと頷いた。


「壊すのは得意ですわよ。人手が要るから私の協力が必要ということでしたのね?」


「そうだ。ただし建物を壊す前に連中らを東の空き地に集めろ。絶対に殺したり食ったりはするな。反抗する奴は俺の前に引きずり出して来い」


妖が人の世界に介入すること自体御法度だが、黎はこの浮浪町を住処として定めたため、一切の汚れを許さず快適に暮らすために破壊を行うのだという。

壊すこと自体は玉藻の前が言ったように得意なため、玉藻の前が葉っぱを大量にちぎって術をかけて一気に人手を増やすと、黎を先頭に屋敷を出た。


「火車、雷を浮浪町だけに降らせろ。人にはあてるな」


「はい。にゃーご!」


大きくなった火車が大きな声で鳴くと、みるみる暗雲が垂れ込めて大量の雷が雨のように建物のみに降り注いだ。

住人たちが慌てて飛び出て来て黎たちを見ると、わざと凶悪そうな笑みを浮かべた黎は人差し指と中指をちょいちょいと上げて命じた。


「壊す者と空き地に人を誘導する者を分ける。さあ、行って来い」


「応!」


黎を主とする妖たちが這い出てきた住人たちにまるで襲い掛かるようにして群がり、空き地に誘導を始めた。


「よーし、俺は壊すぞー!」


「火車は壊した家の残骸を西の空き地に集めて焼き払え」


「はい」


てきぱきと指示こそ出すものの、後は腕を組んで傍観。

妖艶な笑みを見せる黎に住人たちは見惚れつつ恐れ戦きつつ、東の方へと追い込まれて行った。