千一夜物語

翌日、黎が妙なものの注文を命じた。


「木材と…屋根瓦ですか?」


「そうだ。できる限り用意しろ」


「ですがこの屋敷には必要ありませんが」


「ここじゃない。とにかく言う通りにしろ」


説明するのが面倒だと言わんばかりに言い放つと、そういう態度に慣れている牙は猫の大きさの火車の首根っこを摑まえてぷらんとすると、睨み上げた。


「お前にも働いてもらうからな。てかここに居る妖総動員でやんぞ!」


黎を主と定めた妖たちが屋敷を離れて飛び立つと、黎は残った玉藻の前に端的に述べた。


「明日から決行する。もし暴動が起きそうになったら鎮めろ。なんなら俺が出て行ってやってもいい」


「何を始めるか分かりませんけれど、分かりましたわ」


実はいつも黎の膝や腹の上に乗っている火車を羨ましいと思っていた玉藻の前が子狐の大きさになると、どうやら黎は動物が好きらしく、首根っこを掴んでひょいと膝に乗せてぐりぐり撫で回した。


「あっ、そんな、黎様!」


「変な声を出すな。お前には存分に働いてもらうからな、今のうちに身体を休めておけ」


玉藻の前は黎を見上げてじいっと顔を見つめた。

いつも真一文字に引き結ばれている形の良い唇、すうっと整った鼻梁と少し上がった眉――目が合って鼻を突かれると、その手をぺろぺろ舐めて無邪気な笑顔を見せた。


「本当に尻尾が九本あるんだな」


「いやん、そこはあまり触らないで下さいまし」


「お前と牙の尽力で屋敷もほぼ出来上がったな。褒めてやる」


「黎様はわたくしたちの主なのですから当然のことですわ。何をするのか分かりませんけれど、明日も張り切りますわよ!」


またぐりぐりわしわし撫で回されて、尻尾をはち切れんばかりに振り回した。