千一夜物語

「よっ、遠野のお姫さん!」


「?あなた…誰?」


六郎を探して平安町を彷徨っていた澪に声をかけた男は背中半ばまである髪を結んだ若い男だった。

だが澪はその男を知らずきょとんとしていると、男は澪の手を引っ張って路地裏に連れ込むと、自身の唇に人差し指をあてた。


「静かにな。あれあんたのお付きだろ?離れるのを待ってたんだ」


「あの…?」


「あー、俺は…えーと、そうだ、六郎の知り合いなんだ。あいつちょっとここを離れなきゃいけなくてさ。遠野のお姫さんが心配だから見てやっててくれって言われてさ」


「六郎さんが?わざわざありがとう。こっちにはいつ戻って来れるの?」


七尾(ななお)と名乗った男は澪と共に膝を抱えて中腰になると、ひそひそと声を潜め合った。


「それが分かんねえんだ。だからあんたが探してる男が見つかるまで見てやってくれって言われたんだ。事情は六郎から聞いてるから安心しなよ」


にかっと笑った笑い方と話し方が六郎に似ていて安心した澪は、唇を尖らせて現状を愚痴った。


「それがね、今お世話になってるお家の…ええと、一応私の許嫁なんだけど、その方、好きな人が居てね。でも肩身の狭い思いはしてないの。だけどお邪魔虫かなあって思ったりすることもあって…」


「ふうん、あんたみたいな別嬪が傍に居たらすぐ自分のものにしたくなるけどなあ」


「やだもうっ!で、七尾さんは何をしてる方?」


七尾はまたもや少し口ごもりながら頬をかいた。


「俺はちょっと探し物をしてるんでさあ。これがなっかなか見つかんなくて困ってるんだ。だからあんたみたいな話をしてくれる奴がいてくれて心休まるよ。また会ってくれるかい?」


「うん、いいよ。あ、そろそろ見つかっちゃうからまた明日。声をかけてねっ」


路地裏を出た澪が人影に消えていくと――七尾は笑顔をすうっと消して呟いた。


「帝め…何処に居やがるんだ」


冷えた目と声で、消すべき相手を呪った。