千一夜物語

黎が本当に独り身であるのならば――

黎が受け入れてくれるのであれば――この身を委ねてもいい、と思った。


黎が本当に自分を抱きたいと思っているのなら…

食われるのは嫌だけれど、たった一度だけ…好きな男に抱かれたい、と思った。


「…私を抱きたいのですか?」


「…会った時からそう言っている。いずれは抱いて…お前を食…」


「食われるのは駄目です。私は皇室で唯一の直系。私が死ぬことはこの国の死にも繋がります。だから…」


――抱きしめている神羅の心臓が早鐘を打っているのが密着している身体から伝わってきていた。

そしてまた黎の心臓も早鐘を打っていて、ふたりの鼓動が共鳴して身体が熱を持った。


「……食われるのは嫌です」


「…だったら何だったらいいんだ」


顔を上げた神羅は、暗闇の中光る黎の目をじっと見つめてぶるぶる唇を震わせながら、黎の背中に回した手にぎゅうっと力を込めて勇気を振り絞った。


「私を抱きたいなら…それだったら……」


「!…いい…のか?」


――神羅から確たる言葉を得た黎は、全裸の神羅を押し倒してすでに上がる息を抑えられないでいた。


好いてくれている――

少なくとも嫌われてはいない。


「本当に…抱くぞ…?」


「何度も訊かないで…!」


食らいつく勢いで神羅の首筋に唇を這わせると、激情のまま強く肩を掴んでしまって神羅が小さなうめき声を上げた。

はっと顔を上げた黎は、神羅がまだ重傷の身で無理をさせてはいけないことを思い出して歯を食いしばりながら身体を起こした。


「黎…?」


「…悪路王を殺したらお前を抱く。俺と約束しろ」


神羅は少し残念に思いながらも、頷いた。


「分かりました…」


もう、言葉で好きだの惚れただの言わずとも、伝わっていた。


人と妖――

結ばれぬ恋だからこそ、燃え上がる。


唇くらいは…と顔を寄せると、神羅が目を閉じた。


傷が痛まないように、優しく唇を重ねた。


悪路王を殺した暁には――神羅を抱いて、今後の人生ずっと傍に居たいと言わせてみせる。


黎の胸の奥底にある熱い塊は沸騰して、ぐつぐつ煮え滾っていた。