千一夜物語

もう黎には何度も裸を見られている。

胸を触られたこともあるし、実際問題いつ抱かれてもおかしくない状況が何度もあった。


――黎は独り身だとはっきり告げてきたし、それを告げられたことでまた性懲りもなく期待してしまう自分が許せないし恥ずかしい。


「よいしょっとお!黎様手伝いが必要ならいつでも呼んで!」


「ああ分かった。もういいから早く行け」


…この男、本気で湯浴みの介助をするつもりか――?

神羅が胡乱な目で黎を見ると、それに気付いていながらも黎は腕まくりをして湯を張った桶に手拭いを浸して絞った。


「身体を拭いてやる。ついでに髪も洗ってやる。痒いところがあったら言え」


「ちょ…ちょっと待って下さい。本気なのですか!?」


「これが冗談に見えるか?」


「こんな明るい部屋で!裸になれと言う方が無理でしょう!?」


…明かりを消しても妖は夜目が利くため見えるのだが…と思いつつそれは伏せておいた黎は、行灯の火をふっと息で消すと、神羅には真っ暗に見えてほっと息をついた。

だが黎には丸見えで、安心して浴衣を脱いでいる神羅に罪悪感も抱かずしめしめとほくそ笑みながら、細い身体に見合わない大きな胸が露わになるのを見て喉が鳴りそうになって咳ばらいをした。


「あっちを向いて背中を出せ」


言う通りに黎に背中を向けた神羅の真っ白な身体を手拭いで拭いてやりながら、その柔肌に指を這わせた。

その不自然な動きに神羅が身を縮ませると、身体に唇を這わせたいのをなんとか堪えて気を散らそうと神羅に話しかけた。


「その傷はひと月ほどで良くなるらしい。本来はもっとかかるんだが俺の仲間の功績だ」


「そうですか…後で礼を言わせて下さい」


「今度はこっちを向け」


素直にこちら側を向いた神羅の眩しすぎる肢体に理性が利かなくなり、黎の目に青白い炎が燈って光った。

神羅はゆらゆら揺れるその炎に見惚れて息を詰めていた。


「黎…?」


「小娘のくせに…俺を翻弄するな」


傷に触れないようにしながら神羅を抱きしめると、あっけなくその身を委ねてきて、押し殺した声で呟いた。


「………たい」


「…え…?今…なんて…?」


もう一度言う勇気はない。

抱きたいなんて、しらふではもう言えない。