千一夜物語

時間ができると神羅に会いに行く。

手の届く場所に惚れた女が居るというのはなんともむず痒く、用もないのに会いに行っては神羅に鬱陶しがられていた。


「黎…身体を休めたいのですが」


「ここは俺の部屋だ。部屋の主が居て何が悪い」


「ですから部屋を移りたいと何度も言って…」


「それは諦めろ。傷が癒えるまではここに居てもらう。それとも…俺に会うのは嫌か?」


――黎の射るような強い目に心を読まれそうな気がして視線を逸らした神羅は話題を変えようと澪を褒めた。


「澪さんはとても明るくて良い方ですね。それに可愛らしくて…私とは正反対」


「正反対?誰と誰がだ?お前の方が可愛……」


思わず本音を口走りかけて止まってしまった黎だったが、そこまで聞いてしまうと黎が何を言おうとしているのか丸分かりで、神羅は顔を赤くしながら深く俯いた。


「…可愛くない、と言いたかったんだが誤解させたな」


「そうですか、それは誤解した私が悪かったですね。すいませんでした」


機転の利かない自分に内心大いに舌打ちをした黎は、つんとしてしまった神羅ににじり寄って胸をじいっと見つめた。

傷口を見られていると分かっていながらも神羅は身を捩って胸を隠し、黎の肩を押した。


「じろじろ見てなんですか!?」


「いや、その傷だとまだ当分風呂に入れないだろうなと思って。そうだ、後で湯を運ぶから身体を拭いてやる」


「…誰が…?」


「俺が」


風呂には入りたいが介助を黎がすると聞いて絶句したのをいいことに、黎は意気揚々と立ち上がって目が潰れそうな輝く笑顔を浮かべた。


「待ってろ。すぐに持って来させる」


「せ、せめて澪さんにお願いを…!」


「あれはいいとこの娘だから、介助される側であって介助する側じゃない。ちなみに俺も介助される側だがお前の裸を見せるわけにはいかないからな」


神羅は口をぱくぱくさせながら拒否しようとしたが――黎はさっさと居なくなって力なく床に倒れ込んだ。