千一夜物語

澪の外出は危険が伴う。

まだ悪路王がこの辺に居るかもしれない可能性が高く、黎は小さく首を振って澪をがっかりさせた。


「駄目だ」


「でも…私…着替えがないんです。お化粧道具もないし…だからお願いっ!」


両手を合わせて拝むように懇願された黎は、平安町には護衛の黒縫を連れていけないため、ちらりと牙を見た。


「お前がついて行け」


「えー!?俺!?女狐でいいじゃん!」


「玉藻には結界の強化ややってもらっていることが沢山ある。嫌なら俺が行くが」


黎が平安町を歩けば必ず衆目が集まる。

それほどきれいな顔をしているためすぐに妖だと知られることも多く、牙は尻尾を小刻みに揺らして不満そうにしながらも、黎を危険な目に遭わせるわけにはいかずに頷いた。


「分かった。戻ってきたら…」


「分かってる。丁寧に梳いてやる」


「よし!行くぜお嬢ちゃん!」


「!ありがとう!黎さん!」


許可が下りて意気揚々と胸を張ったものの、寂しそうに鼻を鳴らした黒縫の前で屈んで頭を撫でた。


「すぐ戻って来るから。お利口さんにして待っててね」


『くれぐれもお転婆はなさいませんように』


「澪にそれを強いるのは無理だろう」


ふっと笑った黎がまた自分の性格を知っているように感じて首を傾げながらも、澪は人型になった牙と共につのかくしを目深に被って浮浪町を出た。

…浮浪町はまだ雑多な感じだが、平安町は塵ひとつ落ちていないほど綺麗に整備されていて、都という感じがする。


田舎者の澪は顔を輝かせながら様々な店を見て回り、実家から持参金として渡された金を使って着物や帯、髪飾りや化粧道具を買い込んでうきうきしていた。

黎からは持参金は要らないと言われていたため惜しみなく使うと、食べ物屋の前で涎を垂らしそうな顔をしている牙に小金を握らせた。


「牙さんこれで何か食べてて。私もうちょっとこの辺を見てくるから」


「おう、目の届く所に居てくれよな」


牙と離れた澪がなるべく目の届く場所に留まりつつ紅を見ていると――


「あれ?遠野のお姫さん?」


「!あなた…六郎さん!?」


ここまで護衛してくれた目が大きくよく喋る男が気さくに手を挙げていた。