千一夜物語

「また後でお話に来てもいいですか?」


「ええ…はい。私は神羅と申します」


「神羅さん。私…黎さんと少しお話して来ますから。ゆっくり寝てて下さいね」


何事かと訝しがる神羅を部屋に残して外に出た澪は、縁側で牙や玉藻の前と話している黎の前に仁王立ちして睨み上げた。


「なんだ」


「黎さん、人を食べるって本当?」


不穏な話の内容に黎がふたりに目配せをしてその場を去らせると、隣に座るよう言って頓着なく頷いた。


「そうだな、食う。数十年にひとり位の間隔だが、それがどうした」


「どうして人を食べるの?黎さんは強い妖なんだから人を食べなくても生きていけるでしょ?どうして…」


黎は少し考えて、黙り込んだ。

澪は絶対に答えを聞くまで動かないという姿勢を見せてずっと待っていた。


「…神羅から聞いたんだな?」


「そうだよ。自分は獲物なんだって。見張られてるって言ってたよ」


「最初はそうだった。俺たちを殺すことのできる武器を作っている女帝が居ると聞いて会いに行った。…これがまた気の強い女で、俺は恩着せがましく助けてやって守ってやる代わりにいずれ食うと言った」


「どうしてそんなことを…」


「そのつもりだったが、今は違う。あれを食らう想像ができなくなった。俺は……」


「好き…なの?」


――澪に勘付かれるほど神羅への想いが滲み出ているのかと思うと恥ずかしくなって片手で口元を隠した黎は、ちらりと澪を横目で見て小さく頷いた。


それを見た澪は、先程勢いよく神羅に黎を勧めたもののなんだかちくりと胸が痛くなった気がして、唇を尖らせた。


「それって両想い…」


「違う。あれは俺のことなどどうとも思っていない。近くに男が居ない環境で育っているから戸惑っているだけだろう」


「そう…なんだ…」


ふらりと立ち上がった澪を見上げた黎が眉を潜めると、澪は自身を鼓舞するように明るい声を上げた。


「またちょっとお話してくるけど黎さんの気持ちは言わないから安心してね」


「あ、おい…」


声をかける間もなくまた神羅の元へ行った澪に黎は苦笑を噛み殺してごろりと寝転んだ。


「じゃじゃ馬め」


鈍感男は口封じに安心しつつ戻って来た玉藻の前を毛玉にして抱きしめて眠った。