千一夜物語

澪の手つきは確かなものだった。

上半身裸になった神羅の傷に軟膏を塗り、その上から手拭いを押し当てて包帯を巻いた後、まだ熱々の粥が入った碗を神羅に持たせた。


「あり…がとうございます」


「傷の手当は黒縫で慣れてるんです。この子小さい時からよく怪我をしてたから」


『面目ありません』


――この娘が黎の嫁。

いや、まだ嫁ではないらしいが…神羅にとっては恋敵の澪は相変わらず傍に陣取って穴が空くほど神羅を見ていた。


「あの…?」


「あ!いいえ、あの私…人とお話する機会があまりなくて。ずっとあなたとお話したかったんだけど黎さんに止められてたんです。まだ痛みますか?」


「ええ、ですが治療をしてくれたおかげで命は助かりました」


「良かった!黎さんすごく心配してて、ここに運んでこられた時すっごく怖い顔してたから。もうそれは頭にこう、角が生えてました」


両方の人差し指を頭の左右で立てて角を表した澪にまた笑みを誘われて微笑むと、澪は足を崩して神羅がゆっくり粥を食べているのを見ながら、本心を語った。


「私ね、あなたと黎さんの邪魔をするつもりはないから安心して下さい!」


「!ごほっ!」


思わずむせた神羅の背中を慌てて撫でてやった澪は、くすくす笑いながら落ち着くまで待っていた。

その時黒縫が口をへの字に曲げて渋い顔をしたのだがそれに気付かず、続けた。


「好きな方が居るんです。私を攫ってくれるって言ってくれた方。夫婦の約束をしてるわけじゃないけど…私、あの方を待ってるから」


「そう…なんですか。ですが誤解しないで下さい。私と黎は怪しい仲ではありませんから」


「そう?少なくとも黎さんはあなたのこと好きだと思うけど」


神羅は碗を畳に置いて伏し目がちになると、儚げに笑った。


「私はあの男の獲物なんですよ。いずれは私を食うと言って見張っているんです。ですから好きとか嫌いとかそういう話ではないんです」


「食べ…る…?」


澪の顔つきが少し変わった。


黎が人を食う――

その事実に嫌悪を表して、すっと立ち上がった。